ACID at Scale

※このブログは2025年5月24日に公開された英語ブログ「ACID at Scale: Why MySQL Needs a Distributed SQL Alternative」の拙訳です。

MySQLのシンプルさと、単一インスタンスにおける堅牢なACID保証は、長年にわたり開発者から支持されています。使い慣れた操作の容易さ、素早いインストール、そして豊富なエコシステムが、その広範な普及に貢献しています。デフォルトのストレージエンジンであるInnoDBは、データの整合性にとって不可欠な原子性、一貫性、独立性、永続性 (ACID特性) を保証しており、それぞれ以下のように定義されています。

  • 原子性は、トランザクションが「すべて実行されるか、全く実行されないか」であることを意味します。
  • 一貫性は、データが常に一つの正当な状態から次の正当な状態へ移行することを保証します。
  • 独立性は、同時並行のトランザクションが互いに干渉しないように保ちます。
  • 永続性は、コミットされた変更が恒久的なものとなることを意味します。

しかし、この単一インスタンスの信頼性が、ACID特性がシームレスにスケールするという期待を生みがちです。データ量とアプリケーションの複雑さが増すにつれて、MySQLの伝統的なシングルノード・アーキテクチャは、強力な一貫性、高可用性、そして水平スケーラビリティを同時に提供することが困難になっています。

このブログでは、ACID特性を大規模環境で維持する必要がある企業にとって、分散型SQLがMySQLの次の必然的な進化である理由を探り、魅力的な選択肢としてのTiDBをわかりやすく紹介します。

大規模環境におけるMySQLのACID特性に関する限界

開発者はMySQLのシンプルさ、普及度の高さ、強力な単一インスタンスのトランザクション保証、そして成熟したエコシステムを支持していますが、データ集約的で要求の厳しいアプリケーション向けにスケールさせようとすると、重大なボトルネックに遭遇します。

スケーリングのボトルネック

MySQLを垂直スケールする (たとえば、単一サーバーにより多くのリソースを追加する) ことは、限界効用の逓減をもたらし、コストを急速に増大させます。リソースを倍増しても、パフォーマンスの向上がわずかである場合があり、長期的には非効率な戦略となります。

読み込みのスケーラビリティのために使用されるプライマリとセカンダリのレプリケーションは、レプリケーションラグという課題を引き起こします。これはセカンダリノードがプライマリノードに遅れをとり、古いデータを読み込む原因となります。特に特定のバイナリログ形式を使用している場合やフェイルオーバー時には、プライマリとセカンダリノード間でデータの不整合が生じる可能性もあります。手動でのフェイルオーバープロセスは往々にして複雑で時間がかかり、完璧に実行されなければデータ損失のリスクを伴います。

複数のMySQLインスタンスにデータを分割することで書き込みをスケールさせようとする手動シャーディングは、計り知れない複雑性をもたらします。シャーディングキーの選定は難しく、ホットスポットを引き起こす可能性があります。アプリケーションがシャードを意識したものになるため、開発のオーバーヘッドが増加します。シャードをまたぐクエリは非効率であり、シャード間でACID特性を維持するには、複雑なアプリケーションレベルのロジックが必要になります。データのリバランスやシャード間でのスキーマ変更の管理も、運用上の大きな負担となります。この複雑性が、開発者の生産性を低下させ、総所有コストを増加させます。

分散環境におけるACIDのトレードオフ

CAP定理は、分散システムが一貫性、可用性、分断耐性の三つの特性のうち、二つしか同時に保証できないと述べています。分散システムにおいてネットワークの分断 (P) は避けられないため、一貫性 (C) と可用性 (A) のどちらかを選択しなければなりません。分散構成におけるMySQLは、しばしば一貫性 (C) を優先するCPシステムとなりがちで、その結果、ネットワーク分断時には可用性を犠牲にする可能性があります。

ここで、ACIDの「一貫性」(データベース内部の正当性) と、CAPの「一貫性」(すべてのノードが同じデータを見ること) を区別することが重要です。アプリケーションがグローバルにスケールするにつれて、MySQLが持つ強力なシングルノードのACID保証は、大幅な妥協や複雑性を伴わずには、分散された環境全体で維持することが難しくなります。

分散型SQLとは何か?

分散型SQLデータベースは、SQLが持つリレーショナルな強みと、NoSQLのスケーラビリティを融合させたものです。それは単一の論理的なデータベースとして見えますが、複数のサーバークラスターをまたいで動作し、データを自動的に分散・複製します。

基本的な概念

主な特徴は以下の通りです。

  • 分散トランザクション:ACID準拠のトランザクションが複数のノードにまたがって実行可能であり、多くの場合、二相コミット (2PC) などのプロトコルを使用します。
  • 水平スケーラビリティと強力な一貫性の両立:より多くのノードを追加してスケールアウトしながら、データの一貫性 (多くの場合、直列化可能分離レベル) を維持します。
  • 分散デプロイメント:複数のデータセンターやリージョンにまたがって展開することで、低レイテンシなアクセスと高可用性を実現します。データの複製と一貫性のために、RaftやPaxosなどのコンセンサスプロトコルを使用することが多いです。

分散型SQL vs. 従来型RDBMS vs. NoSQL

特性従来型RDBMSNoSQL 分散型SQL
データモデルリレーショナル (構造化)ドキュメント、キーバリューなど (柔軟なスキーマ)リレーショナル (構造化)
スケーラビリティ垂直、手動シャーディング水平水平 (多くの場合自動)
一貫性強い (単一インスタンス)多くは結果整合性 (調整可能)強い (分散)
トランザクション強力なACID (単一インスタンス)異なる (多くの場合制限付きまたはBASE特性)強力なACID (分散)
SQLサポートあり限定的またはNoSQLクエリ専用言語あり (多くの場合MySQLまたはPostgreSQL互換)
ユースケース従来型OLTP、Webアプリケーションビッグデータ、リアルタイムアプリケーション、IoTスケーラブルなOLTP、運用インサイト、グローバルアプリケーション 

分散型SQLは、リレーショナルデータベースが持つおなじみのSQLとACID特性の保証に、NoSQLシステムが持つ水平スケーラビリティと耐障害性を加えることで、両者の長所を融合することを目指しています。

MySQLに分散型SQLの選択肢が必要とされる理由

多くのデータ集約型アプリケーションにとって、MySQLの限界は運用上の重大な課題となります。

実際のユースケースにおけるMySQLの限界

  • グローバル金融アプリケーション:従来のMySQLのレプリケーションでは実現が難しい、マルチリージョンでの強力な一貫性が求められます。
  • Eコマースプラットフォーム:ピーク負荷時やセールイベント時に高可用性が必要ですが、MySQLのフェイルオーバーは遅く、リスクを伴う可能性があります。
  • SaaSプラットフォーム:MySQLを使用してシングルリージョンからマルチクラウドまたはマルチリージョン展開へとスケールすることは、運用が複雑でコストがかかります。

運用上の課題点

  • 手動フェイルオーバーとダウンタイム:MySQLのレプリケーションでは、フェイルオーバー時に手動での介入が必要となることが多く、ダウンタイムにつながります。
  • データ不整合:レプリケーションラグにより、プライマリとレプリカ間でデータの乖離が発生する可能性があります。
  • シャーディングの複雑性:手動シャーディングは開発および運用上の負担を増大させ、生産性と総所有コストに影響を与えます。

分散型SQL:大規模環境におけるACID問題の解決方法

分散型SQLデータベースは、これらの制約を根本から克服するように設計されています。

  • ビルトインの水平スケーラビリティ:これらのシステムは、データの自動シャーディングとリバランス機能を備えており、アプリケーションの書き換えや手動介入なしに、ノードを追加するだけでシームレスなスケールを可能にします。
  • 強力な一貫性と高可用性:RaftやPaxosなどのコンセンサスプロトコルにより、データは複数のノード (そして多くの場合、リージョン) 間で一貫性をもって複製されます。これらのプロトコルは、強力なACID特性保証と、ノードまたはリージョン全体の障害が発生した場合の自動フェイルオーバーを提供します。
  • 運用上のシンプルさ:これらのシステムは、分散環境の複雑さを抽象化し、アプリケーションに対して統一されたSQLレイヤーを提供します。フェイルオーバー、バックアップ、スケール変更のワークフローは、多くの場合、自動化され、単純化されています。

TiDBの紹介:MySQLユーザーのための分散型SQL

TiDBは、水平スケーラビリティ、強力な一貫性、および高可用性のために設計された、オープンソースでMySQL互換の分散型SQLデータベースです。これは、オンライン・トランザクション処理 (OLTP) のワークロードをスケールさせると同時に、オペレーショナルデータに対するリアルタイム分析も実行できるワンストップソリューションとなることを目指しています。

スケーリング可能なACIDワークロードの主要機能

  • 混合ワークロードのサポート:TiDB は、行指向ストレージと列指向ストレージを統合しており、トランザクションが発生したばかりの新しいデータに対してリアルタイム分析を実行できます。
  • 強力な一貫性:分散型キーバリューストレージ層内でRaftコンセンサスアルゴリズムを通じて実現されており、クラスター全体でACID準拠が保証されます。
  • 弾力的なスケーリング:ノードを追加することで水平にスケールし、「リージョン」と呼ばれるデータシャーディングとリバランスが自動で行われるため、手動シャーディングの煩わしさを解消します
  • マルチクラウドおよびハイブリッドクラウド対応:オンプレミス、パブリッククラウド (AWS、Google Cloud) 、またはハイブリッド環境のどこにでもデプロイ可能です。

なぜTiDBは、大規模なACIDを必要とするMySQLユーザーにとって自然な進化なのか

TiDBはMySQLプロトコル (MySQL 5.7および8.0の構文を含む) との高い互換性を持っているため、既存の多くのアプリケーション、クライアントライブラリ、およびツール (phpMyAdmin、Navicat、MySQL Workbenchなど) を最小限、あるいは全くコード変更なしで利用できます。開発者は使い慣れたSQLインターフェースを利用しながらも、分散型がもたらすスケーラビリティと耐障害性という強力な能力を得ることができます。

成功事例と実社会での導入事例

様々な分野の企業が、複雑なMySQLのシャーディングをTiDBに置き換えています。

移行の道筋:MySQLから大規模環境におけるACIDへ

MySQLからTiDBのような分散型SQLデータベースへの移行は、スムーズに進めることができます。

アプリケーション互換性:SQLレイヤーが重要である

TiDBが持つMySQLプロトコルとの高い互換性により、開発体験はほぼ一貫して維持されます。PingCAPは、移行を支援するためのツール群を提供しており、これには、完全および増分レプリケーションのための TiDB Data Migration (DM)、データエクスポートのためのTiDB Dumpling、高速な一括インポートのためのTiDB Lightning、そしてデータ検証のためのsync-diff-inspector が含まれます。

移行のベストプラクティス

段階的な移行やハイブリッドデプロイメントといった戦略は、リスクとダウンタイムを最小限に抑えることができます。徹底した計画には、潜在的な非互換性 (例:TiDBでのオートインクリメントIDの扱い) への対応と、包括的なテストが含まれます。TiCDCのようなツールは、継続的なデータレプリケーションを促進し、ほぼゼロダウンタイムの移行を可能にします。

まとめ

MySQLの歴史的な功績は否定できず、数多くのアプリケーションにシンプルさと信頼性を提供してきました。しかし、データ集約的で大規模なアプリケーションの要求は、特に強力なACID保証が不可欠な場合、MySQLをそのアーキテクチャ上の限界を超えて追いやってしまいます。手動シャーディングの複雑性、レプリケーションラグ、そして困難なフェイルオーバーは、より進化したソリューションの必要性を浮き彫りにしています。

分散型SQLデータベースは、この進化を象徴するものです。これらは、従来のスケールさせたMySQLが抱える運用上の問題点なしに、水平スケーラビリティ、強力な一貫性、および高可用性を提供するためにゼロから設計されています。

MySQLのエコシステムに根ざした組織にとって、TiDBは説得力があり、自然な次のステップとなります。そのMySQL互換性は移行時のハードルを最小限に抑えつつ、分散アーキテクチャは現在のデータ集約的な世界で必要とされるスケーラビリティと耐障害性をもたらします。混合ワークロード処理、自動シャーディング、堅牢なACIDトランザクションといった機能により、TiDBは企業がデータベースに制約されることなく成長できるよう支援します。これにより、スケール、一貫性、運用上のシンプルさを求めるMySQLユーザーにとって、TiDBは頼れる分散型SQLソリューションとなっているのです。

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