記事公開日:2025年11月25日
「ワイヤレス給電によって配線のない『デジタル世界』を実現する」というビジョンを掲げ、空間伝送型のワイヤレス給電ソリューション「AirPlug」を展開しているのが、日本のスタートアップ企業「Aeterlink」(エイターリンク)です。
同社は単にワイヤレス給電のためのハードウェアを提供するだけではなく、ワイヤレス給電によって実現するさまざまな場所に配置されたセンサーからのデータを活用するソフトウェアの開発にも取り組んでいます。
しかしスタートアップであるがゆえに、変化の激しい事業環境、少人数、スピード重視にならざるをえないなどの様々な課題があると指摘するのが、同社ソフトウェアエンジニアの安井岳氏です。
同氏はこうした課題の解決手法として、MVCフレームワークの活用とNewSQLデータベースのマネージドデータベースであるTiDBの組み合わせが「データ量の多いIoT系のシステムでも結構いける」(安井氏)と語ります。
なぜ安井氏はそう考えるのでしょうか。2025年9月20日と21日に都内で開催されたイベント「ServerlessDays Tokyo 2025」で安井氏が行った講演「スタートアップ企業におけるTiDBの活用について」から見ていきましょう。
スタートアップ企業におけるTiDBの活用について
エイターリンクの安井岳氏。
エッジコンピュータより上のレイヤーでのソフトウェア開発のリード、その他プロダクト開発におけるシステム導入サポート、調整業務、マネジメント業務、採用活動など様々な業務を担当していると自己紹介されました。

安井氏は一般論としつつ、スタートアップには様々なカオスや課題があるとします。
それは例えば、変化に富んだ事業環境、採用の難しさ、業務フローがまだ固まっておらず柔軟な対応が必要、少人数スピード優先による技術的な負債がたまってしまう、などです。

こうしたスタートアップの状況を踏まえつつ、結論としては不用意にメンテナンスコストを増やさず、インフラを含めてシンプルに保つことができて、生産性を高められる構成として、MVCフレームワークとマネージドサーバのTiDBの組み合わせが「データ量の多いIoT系のシステムでも結構いける」(安井氏)と語ります。

エッジに集められたデータをTiDBで集約
その実例として示されたのが、無線給電ソリューションであるAirPlugに対応したビルマネジメントシステムです。
AirPlugは17メートルの距離をデバイス間の角度依存などなく無線給電できるため、これまで電池交換が困難などの事情で設置できなかったさまざまな場所にセンサーが設置できるようになりました。
これにより、例えば空調制御などを緻密に行うことができるようになり、従来よりも電力を削減しつつ快適なオフィス環境を実現できるようになるというわけです。

今回示されたシステム構成は、AirPlugに対応したセンサーと、センサーに電力を無線伝送する送電機があり、エッジに集められたデータがクラウドへ送信されます。
そしてクラウドの内部でマネージドデータベースとしてのTiDBがデータを保存します。
「現状、この構成で基本的に困っていません」(安井氏)。

性能面で問題なく、RDBだけで完結するのが利点
TiDBはMySQL互換のデータベースであり、データベースエンジンが分散処理を行う仕組みになっていることで負荷に応じて性能がスケールする点が特長です。
同社が採用しているのは、このTiDBをマネージドサービスとしてサーバレス形式で提供している「TiDB Cloud Starter」です。
安井氏は、最初はセンサーデータをInfluxDBと呼ばれる時系列データベースに格納していたものの、途中からは全部TiDBに任せられると判断してメンテナンスコスト削減と開発速度の向上を目的にデータを移行したとしました。
「TiDBを選定した理由は、スケーラブルな分散データベースとして性能面などでの問題がないところ。他にも理由はあるのですが、なによりリレーショナルデータベースだけで完結するのは楽だというところが一番大きいかなと思います。
システム導入時にはセンサーデータが一気に増えるのですが、現状そのときにも目立った問題は起きていなくて。以前はシステム導入の日程などを把握していたましたが、最近はだんだんと気にしなくなっています」(安井氏)。
その上で、別のチームが運用中のTiDBのデータベースに対して分析やレポートの作成などの作成を行ってもクエリが遅くなって障害が発生するといったこともなく、またMySQL互換なので既存のMVCフレームワークのためのソフトウェアがそのまま利用できて、システムをシンプルな状態に保てている点も大きな利点だとしました。
「MVCフレームワークは大体どれも似ているので、新しく入った人でもすぐに実装に入れるのがいいところです」(安井氏)。
また、なにか問題が発生したとしてもPingCAP社のサポートがすぐに対応してくれる点も評価されていました。
コスト削減やデータ分析基盤構築など取り組みへ
TiDB Cloud Starterはサーバレスで開発速度や運用の楽さ、柔軟な対応が求められる立ち上げ段階においては有利である一方、費用に関して改善余地があり、安井氏はさらにいくつかのコスト削減策に取り組んでいると説明しました。
まずは管理画面で参照できる実行計画(Explain)を見ながら、インデックスの設定やクエリの最適化などの施策。
また、センサーデータをエッジ側である程度まとめて送って保存することや、キャッシュの活用によりクエリのコスト削減ができるとしました。

安井氏は今後もTiDBを基盤にデータベースの最適化、データ分析基盤やデータの機械学習関連などのシステム構築を行っていきたいとしました。
出典:Publickey – 「ワイヤレス給電システムを提供するスタートアップが、データベースとしてTiDBを選択する理由とは?」(2025年11月25日)