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※このブログは2026年1月27日に公開された英語ブログ「Seamless TiDB Cloud Upgrades: Replicating Production Workloads with Traffic Replay」の拙訳です。

データベースのアップグレードは、往々にして「パフォーマンスへの不安」の種となります。入念なテストを重ねても、クリーンなステージング環境と、SQLパラメータの変動、突発的な同時実行、複雑な実行コンテキストが絡み合う本番環境の混沌とした現実との間にはギャップがあります。このギャップが、アップグレード後に予期せぬリグレッションを招く原因となるのです。

TiDB Cloudのトラフィック・リプレイは、現在一般公開に向けて開発中の社内ツールで、このギャップを埋めるものです。実行計画のリグレッションやパフォーマンスの「急落」をユーザーに影響が出る前に捉えることで、確固たる自信を持ってアップグレードを実行できるようになります。

主要用語

  • CPS (Commands Per Second):1秒間に実行されるSQLコマンドの数。リプレイの再現性は、テスト環境のCPSが本番環境の推移にどれだけ密接に一致するかで測定されます。
  • プリペアドステートメントとプランキャッシュ:ステートメントIDを維持し、プリペアドステートメントを1対1でシミュレートすることで、プランキャッシュの効率が正確に再現されることを保証します。
  • 99%の精度:CPSの推移とクエリ構成において、本番トラフィックとリプレイ・トラフィックが統計的に相関しています。

従来のデータベーステストにおける課題

一般的な「合成ベンチマーク (クライアント側でのシミュレーション)」は、実際の本番環境の負荷を反映できないことが多々あります。トラフィック・リプレイは、以下のような具体的な「再現性のギャップ」を解消します。

特徴合成シミュレーション (従来手法)Traffic Replay (TiDB Cloud)
負荷パターン静的:固定されたスクリプトや単純なランダム化に依存します。動的:混在するリクエストタイプや変動する頻度を捕捉します。
データ分布一様:ホットスポットやデータの偏りを見落としがちです。実データ:現実世界のデータ偏りの条件下でキャッシュやインデックスを検証します。
同時実行性固定:線形または静的な同時実行モデルです。現実的:突発的なバーストや相互に関連するセッション状態を再現します。
実行コンテキスト過度に簡略化:セッション変数やプランキャッシュの状態が欠落することがあります。高い精度:コネクションやプリペアドステートメントを1対1でマッピングします。

TiDB Cloudトラフィック・リプレイをいつ使用すべきか?

アプリケーションが以下のいずれかの基準に該当する場合、メンテナンス・サイクルにおいてトラフィック・リプレイの実施を必須ステップとすべきです。

  • メジャーバージョンのアップグレード:アーキテクチャが大きく変更される移行 (例:TiDB 6.x から 8.x への移行)。
  • オプティマイザの変更:オプティマイザの強化など、新しい機能を有効にする場合。
  • P99/P999レイテンシへの高い敏感度:わずか5msのリグレッションも許容されない、低レイテンシが極めて重要なアプリケーション。
  • ワークロードの激しい変動:トラフィックの突発的な急増が頻繁に発生するシステムや、複雑なクエリパターンを持つシステム。

TiDB Cloudトラフィック・リプレイの仕組み

TiDB Cloudトラフィック・リプレイは単なるツールではなく、統合された運用ワークフローです。

1. ストレージとセキュリティ

まず、ウェブコンソールから監査ログを有効にする必要があります。これにより、リクエストがオブジェクトストレージ (S3など) に直接記録されます。

  • 暗号化:監査ログは暗号化されたS3バケットに保存されます。また、データ転送時はTLSによって暗号化されます。
  • 機密データの除外:監査ログには元のSQLステートメントが含まれます。高い再現性を確保するため、リプレイ中にデータはマスクされません。ただし、ユーザーはソース側でデータプライバシーを管理できます。記録フェーズにおいて、特定のデータベース、テーブル、または機密性の高いSQLタイプを選択的に除外することが可能です。
  • 保持期間:リプレイしたい「ピークトラフィック」期間がログの保持期間に含まれていることを確認してください。

2. 運用の流れ

  • 環境のセットアップ:リプレイを開始する前にテストクラスタを作成し、TiDB CloudのBRツールを使用して本番データをこのテストクラスタに復元します (通常、数時間で完了します)。テストクラスタのサイズ選択はトレードオフとなります。
    • 1:1クラスタ:最高の再現性を得るため (P99レイテンシやリソース競合の検証に適しています)。
    • スケールダウンしたクラスタ:コスト効率の良い傾向テストのため。※絶対的なレイテンシやホットスポットの挙動は異なる可能性があることに注意してください。
  • 入力:バックアップスナップショットのタイムスタンプをリプレイの開始点として選択します。十分なデータが集まった段階で、いつでも手動でセッションを終了できます。
  • 実行:リプレイツールはそのタイムスタンプから監査ログの読み取りを開始し、それらをSQLステートメントにパースしてテストクラスタ上で実行します。エンジンは本番環境のコネクションIDをテスト環境に1対1でマッピングし、トランザクションの状態を維持します。
TiDB Cloud traffic replay in action.

3. 出力

リプレイ完了後、TiDB Cloudは以下の項目に基づき、クラスタの健全性を効率的に比較するためのレポートを生成します。

  • 主要メトリクスの差分:CPS、レイテンシ、およびCPU使用率の変化を表示します。
  • スロークエリの差分:本番環境では高速だったにもかかわらず、新バージョンで低速化したクエリを特定します。
  • トップSQLの差分:新バージョンにおいて、より多くのCPUリソースを消費しているクエリを表示します。

以下のチャートは、あるお客様がアップグレード前に実施したトラフィック・リプレイにおける、CPS、各コンポーネントのCPU使用率、およびレイテンシの結果を比較したものです。

チャートには以下の内容が示されています。

  • CPSの重なり:CPSの誤差は1%以内であり、比較曲線はほぼ完全に重なっています。これはワークロードの再現性がほぼ完璧であることを示しており、実際のビジネス負荷に基づいたテストが行われていることを意味します。
  • P999レイテンシ:最大P999レイテンシが20%以上減少しています。アップグレードは複雑なエッジケースのクエリに影響を与えることが多いため、このテールレイテンシの改善は非常に重要です。
  • CPU使用率:TiDB、TiKV、およびTiFlashのCPU使用率が10%以上減少しています。これにより、明確なパフォーマンスの向上、あるいはコスト削減の機会を確認できたことになります。

次に、スロークエリおよびリソース消費の激しいSQLステートメントの比較を見てみましょう。

スロークエリの総数が大幅に減少しており、実行計画が最適化されたSQLステートメントの数が、リグレッションを示したものを大きく上回っていることは明らかです。特定されたリグレッションについては、詳細をダウンロードして実行計画を固定することで、アップグレード後のビジネスへの影響を未然に防ぐことができます。

リグレッションへの対応策:問題が発生した場合は?

リグレッションが見つかることは、むしろ「勝利」を意味します。それは、問題が表面化する前に事前に察知できたということだからです。以下の手順に従って対応してください。

  1. 特定:「スロークエリ」セクションから、特定のSQL Digestを特定します。
  2. 確認:実行計画を比較します。統計情報の乖離か、あるいはオプティマイザの変更によるものかを確認してください。
  3. 修正:SQLプランバインディングを使用して、既知の「良好な」実行計画を固定するか、統計情報を更新します。
  4. 検証:リプレイセッションを再実行し、本番環境の負荷条件下で修正が有効であることを確認します。

留意すべき制限事項

ユーザーは、リプレイプロセスに内在する以下の技術的な制約を認識しておく必要があります。

  • コネクション間の時間的乖離:独立したセッション間における絶対的な時間的整合性は変動する場合があり、本番環境での全体的な実行順序とは異なる順序になる可能性があります。
  • DML実行結果の相違:DMLステートメントの結果が本番環境とは異なる場合があります。例えば、テーブルでオートインクリメント列を使用している場合、同時実行のタイミングや環境変数の違いにより、リプレイ環境で生成されるIDが本番環境と一致しない可能性があります。

まとめ

ワークロード再現において99%の精度を達成することで、TiDB Cloudのトラフィック・リプレイは、アップグレードを「リスクを伴うイベント」から「検証済みのルーチン」へと変貌させます。

次回のアップグレードを安全に行う準備はできていますか?直近のピーク期間から30分間のトラフィックセッションを実行し、P999レイテンシとTop SQLのCPU時間を比較してみましょう。


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